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Free article — 行動経済学B-01

4,980円は、高いですか。

この記事は、説明から始めません。 まず横で(スマートフォンなら下で)、一度だけ判断してもらいます。 そのあと二つの比較対象を置いて、もう一度同じ数字を判断してもらいます。価格は、そのあいだ一円も動きません。

実験は1分ほど。最後まで読んで10分ほど。全文無料です。答えの保存も送信も採点もしません。 これは性格診断でも、あなたを買う気にさせるための仕掛けでもありません。

Experiment / 二回、判断してもらいます¥4,980
Step 1

何も見ないで、判断してください

未回答

4,980円。これは、高いですか。

Step 2

二つの比較対象を、横に置きます

ロック中

Step 1 に答えると、ここが開きます。先に自分の答えを決めてください。

Step 3

もう一度、判断してください

ロック中

Step 2 を読むと、ここが開きます。

Reveal

種明かし

ロック中

二回とも答えると、ここが開きます。

この実験は、あなたのブラウザの中だけで動いています。答えの保存も、送信も、採点もしません。 ページを閉じれば、何も残りません。

種明かし

私は、価格を一度も変えていません。

一回目も二回目も、お見せしたのは同じ4,980円です。 桁も、通貨も、書き方も同じです。 私が足したのは、その数字の横に置く比較対象だけでした。

価格は、数字だけでは決まらない。比較の中で意味を持つ。

もし答えが動いたなら、動いたのはあなたの中の基準です。 もし動かなかったなら、あなたはすでに自分の基準を持っていた、ということになります。 どちらも正常で、どちらも正解です。 ここから先は、いま起きたことに名前をつけていきます。

この記事は、無料でここから最後まで読めます。 途中で登録を求めることも、続きを有料にすることもありません。

四つの言葉

いま起きたことに、名前がついています。

行動経済学と呼ばれる分野が、同じことをずっと前から書いています。 むずかしい言葉に見えますが、中身はいま体験したとおりです。 四つだけ紹介します。

01

アンカリングと、調整の不足

Anchoring and insufficient adjustment

先に見た数字が、そのあとの判断の出発点(アンカー=錨)になります。 人はそこから動かして考え直すのですが、その動かし方が足りずに、 最初の数字の近くで止まってしまうことがあります。

比較Aで、あなたが最初に読んだのは500円と1,800円でした。 4,980円を評価する前に、私はあなたに錨を渡していたことになります。 「最初に何を見せるか」は、中立な選択ではありません。

02

参照点と、フレーミング

Reference points and framing

人は金額そのものよりも、ある基準からどれだけ離れているかで評価しやすい。 その基準を参照点と呼びます。参照点が動けば、同じ金額が得にも損にも見えます。

さらに、同じ内容でも言い表し方を変えると、選ばれ方が変わることがあります。 「4,980円かかります」と「40時間ぶんを引き受けます」は、同じ取引の別の言い方です。 言い方を選ぶ側にいるのは、いつも売り手のほうです。

03

心理会計

Mental accounting

頭の中には、財布が何個もあります。食費の財布、交際費の財布、勉強の財布。 同じ4,980円でも、どの財布から出すつもりかで、痛み方がまるで変わります。

比較Bが効いたとしたら、財布が「本を買う財布」から 「自分の時間を買い戻す財布」に移ったからです。 金額は同じで、出どころだけが変わりました。

04

取引効用と、参照価格

Transaction utility and reference price

買い物の満足は、二つに分けて考えられています。 一つは、手に入れたものが自分にとってどれだけの値打ちがあるか。 もう一つは、「これくらいのはず」と思っていた価格(参照価格)と、 実際に払った額との差です。後者を取引効用と呼びます。

ここが厄介なところです。 取引効用は、商品が良くなくても発生します。 「得をした」という感覚は、商品そのものとは別の場所から来ることがある。 だから次の節が必要になります。

四つとも、「そうなりやすい」という傾向の記述であって、 全員に必ず起きる法則ではありません。 どれくらい強く起きるかは、状況によっても、人によっても変わります。 この記事では、効果の大きさを数字で示すことはしません。 元の研究が扱った場面と、あなたの商売の場面は同じではないからです。

研究の出発点

私が読んだのは、この五つです。

上の四つの言葉は、私が考えたものではありません。 出どころを置いておきます。すべて元の論文か、出版社のページです。 リンク先は英語で、一部は有料の場合があります。

  1. Tversky, A. & Kahneman, D. (1974)

    Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases

    Science(DOI)

    先に見た数字が、そのあとの見積もりの出発点になり、そこからの調整が足りなくなることがある、という報告。アンカリングという言葉の出どころです。

  2. Kahneman, D. & Tversky, A. (1979)

    Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk

    Econometrica(JSTOR)

    評価は絶対の量ではなく、ある基準からの差として行われやすい、という考え方。参照点という言葉をここから借りています。

  3. Tversky, A. & Kahneman, D. (1981)

    The Framing of Decisions and the Psychology of Choice

    Science(DOI)

    同じ内容でも、どう言い表すかで選ばれ方が変わることがある、という報告。フレーミングの出どころです。

  4. Thaler, R. (1985)

    Mental Accounting and Consumer Choice

    Marketing Science(INFORMS)

    買い物の満足を、手に入れたものの値打ちと、思っていた価格との差に分けて考える枠組み。心理会計と取引効用の出どころです。

  5. Thaler, R. (1999)

    Mental Accounting Matters

    Journal of Behavioral Decision Making(Wiley)

    上の枠組みを、著者自身があとから整理し直した総説。用語の定義を確かめるならこちらが読みやすいです。

私は、これらを方向の話として引いています。 「こういう傾向が報告されている」までが、この記事の主張です。 何パーセント効くという話も、いつでも誰にでも起きるという話もしていません。 実験室で起きたことが、あなたの商品ページでそのまま起きる保証はありません。

売り手としての線引き

ここまで読んだあなたは、道具を持ってしまいました。

比較対象を選べば、同じ価格の見え方を動かせる。 それが分かった以上、使わない、と決めておく使い方を先に書いておきます。 私が自分に禁じているのは、次の五つです。

しないこと

  • 一度も売ったことのない価格を二重線で消して、値下げしたように見せること。
  • 実際には減っていない在庫や、本当は存在しない締め切りを作って見せること。
  • 売る気のない高い商品を、高く見せるためだけに横へ並べること。
  • 総額を小さく見せるために「1日あたり◯円」へ割って、払う総額を目立たなくすること。
  • 中身が薄いことを、見せ方や言い換えで覆い隠すこと。

すること

  • 買う人が実際に比べているものを、そのまま比較対象として置くこと。
  • 買わなかった場合に本当にかかるもの(時間・手間・不確実さ)を、正直に見積もること。
  • 払う総額を、いちばん読みやすい場所に書くこと。
  • 向いていない人には、向いていないと書くこと。
  • 約束できないことを、約束しないと書くこと。

目的は、本当にある価値を分かりやすくすること。 ない価値を、あるように見せることではありません。

線の引き方は、一つの問いで足ります。買った人が三ヶ月後にこの説明を読み返したとき、私は同じことを言えるか。言えないなら、それは価値の説明ではなく、その場だけの演出です。 比較対象を選ぶのは、嘘をつくためではありません。 相手が正しく比べられるようにするためです。

手を動かす

紙に、三つだけ書いてみてください。

読んで終わりにすると、明日には消えます。 あなたが売っているもの、あるいはこれから売るものを一つ思い浮かべて、 次の三つを書いてください。三行で足ります。

  1. 01
    その人は、いま何と比べていますか。あなたが比べてほしいものではなく、その人が実際に横に置いているものです。 別の商品かもしれませんし、「何もしない」かもしれません。 正直に書けないうちは、価格の話に進めません。
  2. 02
    買わなかった場合、その人は代わりに何を払いますか。時間。手間。どれを選べばいいか分からない迷い。 やってみて合わなかったときの、やり直しの手間。 これが、あなたの商品の本当の比較対象です。金額とは限りません。
  3. 03
    買ったあと、その人の何が変わりますか。受け取る物ではなく、その人の状態で書いてください。 「PDFが届く」ではなく「明日の朝、何から始めるか決まっている」。 ここが書けたなら、価格をつける根拠が一つできています。

このページに入力欄はありません。印刷しても、手元のメモに書き写しても構いません。 書いたものはどこにも送られず、私も見ません。 そもそも、受け取る仕組みを持っていません。

この記事は、ここで終わりです

先に、正直な話をします。

この記事で使った4,980円は、私が売っている第1章ポジティブを商品にする』の価格と同じ数字です。 わざと同じにしました。 ただし、上の実験は、第1章が4,980円に見合うことを証明しません。 実験が示したのは、あなたの答えが比較対象で動くことがある、それだけです。 そして、この金額が安く見えたとしても、それは中身の値打ちの証明にはなりません。 値打ちがあるかどうかは、あなたが中身を見て決めることです。

そのうえで、この記事の続きに当たるものを一つだけ置いておきます。 第1章は、あなた自身の経験を「誰に、何を、いくらで、どこで届けるか」の 9項目に落とし、一枚の商品設計書にするための実践章です。 読み物ではなく、2〜3時間かけて書く章です。

その章が約束しないことは、三つです。

  • あなたの商品が売れること
  • 支払った金額が戻ってくること
  • 収入が増えること

約束するのは一つだけで、 「最後まで書けば、「何を売ればいいか分からない」という状態からは出ている。」というところまでです。 向いていない人のことも、第1章のページに書いてあります。 先にそちらを読んでから決めてください。