私を主語にした説明
三年かけて作った、全120ページのPDFです。
私が独自に体系化した五つのステップを、余すところなく解説しました。
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Free article — 本と、売ること / B-09
商売の話には、必ず誰かの名言が出てきます。スミス、ドラッカー、チャルディーニ、カーネマン。引用が出た瞬間、その主張は少し正しそうに見えます。見えるだけです。
この記事は、名言集ではありません。六冊分の考え方を、それぞれ一つの販売判断に結びつけます。一冊につき、決める場所を一つ、例を一つ、その考えがよく誤用される形を一つ、そして三分で終わる作業を一つ。それ以外は削りました。
引用は短くします。本文の書き写しはしません。長く引けば説得力が増すわけでもありませんし、他人の本を写して自分のページを厚くするのは、このサイトが商品でやらないと決めていることと同じ種類の行為だからです。
読んで20分ほど。六つの短い作業と、出典の一覧つき。全文無料です。 入力欄も送信もありません。紙かメモを一枚だけ用意してください。ここに出てくる誰も、このサイトを知りませんし、推薦もしていません。
はじめに
「アダム・スミスもこう言っています」と書いたところで、あなたの商品が良いことにはなりません。にもかかわらず、引用には効果があります。読んだ人の頭の中で、その主張が少しだけ確からしく見えるからです。効果があるのに、証拠ではない。この二つが同時に成り立つので、引用は扱いを間違えやすい道具です。
この記事での引用の使い方を、先に決めておきます。引用は、レンズです。いま見ている自分の商品を、別の角度から見るために一枚だけ借りるものです。レンズは、向こう側にあるものを作り出しません。すでにそこにあるものを、違う形で見せるだけです。
名言は、あなたの商品を保証しません。レンズを一枚貸すだけです。
だから、この記事で紹介する六つの考え方は、どれも「だから売れる」という結論に着きません。着くのは、「だから、ここを決めていないと売れない理由が分からないままになる」という場所です。売れる理由を約束するのではなく、分からなくなる原因を一つずつ潰す。それが、レンズにできる仕事の全部です。
もう一つ、先に書いておきます。ここに出てくる人たちは、このサイトを知りません。読んだこともありませんし、推薦もしていません。彼らの本に書かれていることと、このサイトが売っているものの良し悪しは、何の関係もありません。もし誰かの販売ページで「◯◯も推奨」という書き方を見たら、その人が本当にその商品を見たのかを疑ってください。
この記事で使う引用は、いずれも一文以内です。書名と著者、そして原文が読める場所を、記事の最後にまとめてあります。訳は、意味が変わらない範囲でこのサイトが付けたものです。原文と並べて置いてあるので、訳が気に入らなければ原文で読んでください。
一冊目 — 交換
アダム・スミスが『国富論』で書いた、取引を持ちかけるときの言い方があります。原文はこうです。「Give me that which I want, and you shall have this which you want.」——私が欲しいものをください、そうすればあなたが欲しいものが手に入ります。
この一文が置かれているのは、人間が利己的でよろしい、という主張の中ではありません。取引がどうやって成り立つかという説明の中です。取引を持ちかける側は、自分がどれだけ困っているかを話しても相手は動かない。相手にとって何が手に入るのかを話したときに、はじめて交換が始まる。スミスが書いているのは、その順番です。
あなたの商品説明の主語は、いくつが「私」で、いくつが「あなた」でしょうか。これは書き方の好みの話ではありません。私が何を作ったかを並べた説明は、読んだ人に「で、それが自分に何をもたらすのか」を自分で翻訳させます。翻訳は仕事です。買う前にやらせる仕事が多いほど、判断は遠のきます。
三年かけて作った、全120ページのPDFです。
私が独自に体系化した五つのステップを、余すところなく解説しました。
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読み終えると、あなたの手元に商品設計書が一枚残ります。
誰に、何を、いくらで、どこで届けるかが、九つの欄に埋まった状態です。
書く時間は二〜三時間。書かずに読むだけなら、この一枚は手に入りません。
分量は減っていません。減ったのは、読んだ人が自分で翻訳する仕事のほうです。なお、AFTER側の文章にも欠点があります。「二〜三時間」が本当かどうかは、読んだ人には確かめられません。主語を移すことは、証拠を用意することとは別の作業です。
スミスの名前は、「みんなが自分の利益を追えば全体が良くなる」という主張の看板として使われがちです。ここではその議論に立ち入りません。ただ、上の一文から取り出せるのは、そこまで大きな話ではありません。取り出せるのは、交換が成立するのは相手にとっての利益が見えたときだ、という一点だけです。それ以上を持たせようとすると、引用が主張の代わりになってしまいます。
もう一つの誤用は、逆方向に働きます。「相手の利益から話す」を、相手の利益を発明することだと読み替えてしまう形です。相手が困っていないことを困っているように書き、必要のない不安を先に作ってから解決を出す。順番は同じですが、これは交換ではありません。実際にある利益を見えるようにすることと、無い利益を作り出すことのあいだに線があります。
いま出している商品説明から、いちばん自信のある一文を選んでください。その一文の主語が「私」や「この商品」なら、「あなた」に書き換えます。書き換えられないなら、それは相手にとっての利益がまだ言葉になっていないという合図です。書き換えた文が前より弱く感じたなら、たいてい正しい方向に進んでいます。強く見えていたのは、こちらの努力の量だったからです。
二冊目 — 顧客
ピーター・ドラッカーの名前を冠した機関が、彼の原則としてまとめている一文があります。「the purpose of a business is to create and keep customers」——事業の目的は、顧客を創造し、維持することである。短い一文ですが、ここで効くのは後半です。create だけでなく、keep が並んでいます。
売上を目的に置くと、指標は「何件売れたか」になります。顧客を維持することを目的に置くと、指標は「買った人が、もう一度この人から買いたいと思ったか」に変わります。同じ商売でも、見る場所が変わります。前者は決済の瞬間で終わり、後者は決済の瞬間から始まります。
この一文を販売判断に落とすと、決めるべきなのは購入直後の設計です。支払いが終わった人が最初に見る画面に何があるか。最初に開くファイルはどれか。どこから手をつければいいと書いてあるか。ここが空白だと、買った人は自分で読む順番を決めるところから始めます。それは、期待していた変化までの距離が遠くなるということです。
例を一つ。同じ三点セットのファイルを渡すとして、ダウンロードページに三つのファイル名が並んでいるだけの場合と、「まずワークブックの01を印刷して、材料棚卸しから始めてください。本編は、詰まったときに戻る場所です」と一行あるだけの場合とでは、買った人が最初の三十分でやることが変わります。ファイルは同じです。変わったのは、迷う時間だけです。
「顧客を維持する」を、解約させない仕組みのことだと読むと、方向が反対になります。退会の場所を分かりにくくする、次の請求日を目立たなく書く、やめるために電話をかけさせる。これらはたしかに数字の上では維持ですが、もう一度買いたいと思われることとは別のものです。維持とは、やめにくくすることではなく、もう一度選ばれることです。
もう一つ。ドラッカーの一文は、繰り返し買ってもらえる商品しか作ってはいけない、という意味ではありません。一度きりで終わる商品でも、買った人が誰かに話せる状態で終われば、顧客は維持されています。維持の形は、再購入だけではありません。
支払いが終わった直後、五分後、一日後に、相手に何が起きているかを一行ずつ書いてください。三行とも「ファイルを受け取っている」で埋まるなら、まだ設計していません。三行目に、相手が自分で何かを一つ終えている状態を書けるかどうかが分かれ目です。
三冊目 — 返報性
ロバート・チャルディーニが『影響力の武器』でまとめた原則の一つに、返報性があります。ここでは引用はしません。要約します。人は、何かを先に受け取ると、その相手からの依頼に応じやすくなる傾向がある、というものです。原則の一覧は、著者側の公式ページで確認できます。
この原則は、無料で何かを配る理由としてよく持ち出されます。持ち出し方に、二つの読み方があります。一つは「先に渡せば買わせられる」。もう一つは「先に渡すと、返したくなる人がいることがある」。同じ現象の説明ですが、後者には相手の自由が残っていて、前者には残っていません。
決めるのは、無料のものを渡したあとに何を言うかです。「ここまで無料で提供しました。あとはあなた次第です」と書いた瞬間、無料は貸しになります。受け取った側は、返さないことに後ろめたさを覚えます。それは、こちらが作った後ろめたさです。
このサイトは、そこを逆向きに書いています。トップページにも記事にも、受け取ったからといって返す義務はない、と明記しています。理由は倫理の一言では終わりません。義務があると書いた瞬間、無料で渡したものの評価が、内容ではなく負担で決まるようになるからです。良いものを渡したのに、重く感じられて終わる。それは損です。
いちばんよくある誤用は、返報性を「買わせるための手順」として組み立てることです。無料の分量を計算し、渡す順番を計算し、依頼のタイミングを計算する。そうやって組んだ瞬間、渡しているものは価値ではなく、装置の部品になります。読んだ人は、たいてい気づきます。無料のものの質が、その先の依頼の大きさにちょうど比例していることに。
もう一つの誤用は、量の勘違いです。返報性は、渡した量に比例して強くなる仕組みではありません。友達が買ってきてくれた百円のお菓子が嬉しいのは、金額ではなく、覚えていたという情報が乗っているからです。無料の分量を増やしても、そこに何も乗っていなければ、増えるのは相手の読む仕事だけです。
いま無料で配っているものがあるなら、それを渡した直後に置いている文章を読み返してください。そこに「ここまで無料で」「あとはご判断ください」に類する言い回しがあるなら、一度消してみてください。消しても成立するなら、それは貸しの合図だったということです。
四冊目 — 参照点
1979年の論文に、よく引かれる短い一文があります。「losses loom larger than gains」——損失は、利得よりも大きく立ち現れる。この一文は、価格や説明の書き方の話として持ち出されることが多いのですが、元の文脈はもっと狭いところにあります。
この論文が扱っているのは、確率と金額がはっきり示された選択、つまり賭けの形をした問題です。そこで観察されたのは、人が絶対的な資産額ではなく、ある基準点からの変化として結果を評価しているように見えること。そして、同じ大きさなら減るほうが増えるより重く扱われる場合があること。この二つです。
販売の文章に落とすと、決める場所は一つです。基準点をどこに置くか。多くの説明は、買った場合に得られるものだけを書きます。すると読んだ人の基準点は「いまの自分」のままで、買うことは基準点からの上振れになります。上振れは、なくても困りません。だから先送りできます。
書き足せるのは、買わなかった場合に何が続くかです。これは脅しではありません。事実の記述です。「この一枚が書けていない状態が続くと、次に何を直せばいいかが分からないまま投稿を増やすことになります」。これは、実際にそうなるという説明であって、そうなったら大変だという煽りとは別のものです。
ここで、同じ大きさの反論を並べます。損失回避が、あらゆる場面に当てはまる一般法則として扱えるほど頑健なのかは、その後の研究で問い直されています。ガルとルッカーの2018年の論文は、報告されてきた現象の多くが別の説明でも成り立つこと、そして条件によっては損失側の重みが観察されないことを整理しています。出典は記事の最後に並べてあります。
つまり、「失う痛みは得る喜びの二倍」といった数字を販売文の設計根拠に使うことはできません。使えるのは、判断は基準点との比較で行われることがある、という向きだけです。向きだけで十分です。買わなかった場合に何が続くかを書くという判断は、倍率が二倍でも一・二倍でも変わりません。
これは傾向の話で、法則の話ではありません。効果の大きさは示しませんし、示せません。ここで引いた研究は、賭けや明示されたリスクの文脈で観察されたことを述べたものであり、あなたの商品説明でも同じことが起きる保証はありません。反対の結果が出た研究も、同じ一覧に並べてあります。
あなたの商品を買わなかった人に、明日から何が続くかを一行で書いてください。ただし、書けるのは事実だけです。「一生このままです」は事実ではありません。「同じ質問に、また個別に答え続けることになります」は事実かもしれません。事実として書けないなら、書かないでください。
五冊目と六冊目 — 選択設計と、質問
残り二つは、短くまとめます。どちらも長い引用はしません。要点だけ取り出せば足りるからです。
この本の中心にあるのは、選択肢の並べ方そのものが、選ばれ方に影響するという指摘です。何も設計していないつもりでも、並び順、初期設定、目に入る順番のどれかは必ず決まっています。中立な提示という状態は存在しない、というのがこの本の出発点です。
販売判断に落とすと、決める場所は「最初に目に入るのはどれか」です。三つのプランを並べるとき、どれを左に置くか。ページを開いた人が最初に読む一行に、価格を置くか、変化を置くか、向いていない人を置くか。決めていないなら、決まっていないのではなく、たまたま決まっているだけです。
誤用は分かりやすい形で来ます。設計できるという事実が、誘導していいという許可に読み替えられる形です。存在しない選択肢を比較用に並べる、選ばせたい方だけを目立たせる、選ばない方の手続きだけを面倒にする。設計の技術としては同じですが、目的が違います。目的は、選ばせることではなく、選べる状態を作ることです。
作業(3分):自分の販売ページを、上から三行だけ読み返してください。その三行で、読んだ人は「自分向けかどうか」を判断できますか。判断できないなら、三行のうち一行を、向いていない人の説明に替えてみてください。
この本が扱っているのは、顧客に話を聞くときの質問の作り方です。中心にある指摘は単純です。「これ、良いと思いますか」と聞けば、たいていの人は良いと答えます。相手が優しいからです。だから、意見ではなく、すでに起きた行動を聞く。いくら払うと思うかではなく、これまで同じ問題に何を払ったかを聞く。
販売判断に落とすと、決める場所は「何をもって需要の確認とするか」です。褒められた回数を確認と数えるのか、実際に時間か金を払った回数を数えるのか。前者で数えると、感触は良いのに売れないという状態が長く続きます。
例を一つ。「この商品、欲しいですか」と十人に聞いて八人が「欲しい」と答えたとします。これは需要の確認ではありません。同じ十人に「いま同じことで困って、何かにお金か時間を使いましたか」と聞いて、二人が具体的な出費を答えたなら、そちらのほうが情報です。数は少ないですが、内容が違います。
誤用は、この本を「顧客の言うことを聞くな」と読んでしまう形です。書いてあるのはその反対で、聞く相手を変えろでも、聞くのをやめろでもなく、聞き方を変えろ、です。相手が嘘をついているわけではありません。こちらが、嘘をつきやすい質問をしているだけです。
作業(3分):直近で誰かに商品の感想を聞いたときの質問文を、思い出して書き出してください。その質問が「はい」と答えやすい形になっているなら、過去の行動を聞く形に一つだけ書き換えてみてください。
六枚を重ねる
ここまでを別々の知識として覚える必要はありません。一つの商品に六枚を順番に当てたとき、どこで判断が止まっているかを見つけるために使えます。例として、料理が苦手な一人暮らし向けに、一週間分の献立と買い物リストを売る場合を考えます。内容は完成しているのに、説明は『全七日分・レシピ二十一品・PDF四十ページ』だけ。まだ一件も売れていない状態です。
四十ページは作った側の事実です。買う側が欲しいのは、日曜の夜に次の一週間で何を食べるかが決まり、スーパーで迷わず、余った食材を捨てずに済む状態かもしれません。そこで説明を『七日分の夕食と、一回で買える買い物リストが決まる』に変えます。ただし、これで価値が生まれたわけではありません。実際の買い物リストで一週間を回せるかは、別に確かめます。
購入直後に四十ページを渡すだけなら、買った人は読む順番を決めるところから始めます。最初の画面に『まず冷蔵庫に残っている食材を三つ書く』『次に買い物リストから重複を消す』の二手だけを置く。商品を増やさず、最初の成功までの迷いを減らします。維持するとは、次の商品をすぐ勧めることではなく、最初の商品を使い始められる状態を作ることです。
月曜日の献立と買い物リストだけを無料で公開できます。そこで『ここまで受け取ったあなたなら、続きも必要ですよね』とは書きません。『月曜日だけで足りるなら、ここで閉じてください。残り六日も同じ形式で決めたい人だけ、商品を比較してください』と書く。無料部分が役に立った事実と、購入する義務を切り離します。
『このままでは一生お金と時間を失います』とは書きません。比較するなら、現在一週間で献立を決めるのに使っている時間、食材を余らせる回数、外食へ切り替える回数を本人に書いてもらいます。その隣に、商品の価格、必要な準備時間、含まれないものを同じ大きさで置きます。おすすめ枠や残り時間で選択を押すのではなく、買わない選択まで見える配置にします。
友人に『こんなPDFがあったら欲しい?』と聞けば、たぶん優しく肯定してくれます。代わりに、先週は献立をいつ決めたか、途中で何回買い足したか、似たアプリやレシピ本にお金を払ったことがあるかを聞きます。答えが何もなければ、説得文を強くする前に対象を変える必要があります。褒め言葉は関係を守るための返事かもしれません。過去の行動は、少なくとも実際に起きたことです。
六枚を重ねても、売れる保証にはなりません。できるのは、売れない原因を一つの『魅力不足』にまとめず、交換、購入後、義務、比較、配置、観察のどこに未確認があるかを分けることです。分けられれば、次に直す場所を一つだけ選べます。
まとめ
ここまでの六つを、それぞれ何を見るためのレンズだったかで並べ直します。順番は、実際に手を動かすときに使う順です。
見るもの:説明の主語が、こちらに向いているか、相手に向いているか。
使いどころ:商品説明を書き直す最初の一手。相手にとって何が手に入るのかが一文で出てこないなら、まだ交換の形になっていません。
見るもの:決済のあとに、何を設計しているか。
使いどころ:買った人が最初の十分で何をするかを決める。売上ではなく、もう一度選ばれるかで見る。
見るもの:無料で渡したものが、貸しになっていないか。
使いどころ:無料の直後に置く一文を点検する。義務を作らないと決めると、無料の中身で勝負するしかなくなります。
見るもの:読んだ人が、何と比べているか。
使いどころ:買わなかった場合に続くことを、事実として一行書く。倍率も効果量も使いません。反論のある領域だからです。
見るもの:最初に目に入る順番を、決めているか、決まってしまっているか。
使いどころ:ページの上から三行を並べ替える。目的は、選ばせることではなく選べる状態を作ることです。
見るもの:需要の確認として、何を数えているか。
使いどころ:意見ではなく、過去の出費と行動を聞く。褒め言葉の数は、確認に数えません。
六冊が共通して言っていないのは、「こう書けば売れる」です。
この六つを並べて見えるのは、方法の一致ではありません。見る場所の一致です。全員が、売り手の努力の量ではなく、相手の側で何が起きているかを見ています。主語、購入後、義務の有無、比較の基準、目に入る順番、実際に払われたもの。どれも、こちらの頑張りとは無関係に決まる場所です。
最後に、この記事を六枚のレンズに通しておきます。主語は、読んでいるあなたに向けたつもりです。購入後にあたるものは、記事を読み終えたあとに残る六つの作業です。無料で渡していますが、返す義務はありません。買わなかった場合に続くことも書きましたが、倍率は使っていません。順番は、実際に使う順に並べました。そして、この記事が役に立ったかどうかを、あなたの感想では測りません。六つの作業のうち一つでも手が動いたかどうかで測ります。
手が動かなかったなら、それはこの記事の設計が悪かったということです。どのレンズも、あなたの商品に触れていなかったということでもあります。その場合、ここで閉じてください。名言を六つ覚えて帰るくらいなら、何も持たずに帰るほうが害がありません。
出どころ
短く引いた三つの文と、要約した二つの考え方について、原文や著者側の公式ページを並べます。損失回避については、反論にあたる論文も同じ一覧に入れてあります。『実践 行動経済学』と『The Mom Test』には、このサイトが一次情報として確認できた固定の場所が無いため、書名と著者名だけを挙げています。
Adam Smith (1776)
An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations
Project Gutenberg(全文・パブリックドメイン)
交換を「相手の利益から話す」ものとして書いた箇所の出どころ。記事で引く一文はここにあります。強欲を肯定する文章としてではなく、交換が成立する条件の記述として読んでいます。
Drucker Institute
Peter Drucker's Life and Legacy — Principles
Drucker Institute(公式)
「事業の目的は顧客を創造し、維持することだ」という原則を、ドラッカーの名を冠した機関自身がまとめているページ。一度きりの取引ではなく、繰り返される満足として読むための出発点です。
Robert Cialdini
INFLUENCE AT WORK(著者側の公式ページ)
返報性を含む原則の一覧を、著者側が公開しているページ。記事では原則名の確認にだけ使い、本文は要約しています。無料で渡すことが買う義務を作る、という読み方はここからは出てきません。
Kahneman, D. & Tversky, A. (1979)
Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk
Econometrica(MIT・PDF)
参照点からの差として評価が行われ、損失側の傾きが大きく見えることがある、と述べた論文。記事で引く短い一文はここにあります。賭けや明示されたリスクの文脈での記述で、あらゆる販売文に当てはまる法則ではありません。
Gal, D. & Rucker, D. D. (2018)
The Loss of Loss Aversion: Will It Loom Larger Than Its Gain?
Journal of Consumer Psychology(DOI)
損失回避が一般法則として扱えるほど頑健かを問い直した論文。上の一文を販売の万能則として使わないための、同じ大きさの反論としてここに並べます。
研究は、商品の値打ちを保証しません。第1章が4,980円に見合うことの証明としても、一切使いません。ここに名前の出てくる著者は、いずれもこのサイトを知らず、見たこともなく、推薦もしていません。引用は考え方を借りるためのもので、あなたの読者で同じことが起きるかどうかは、別に確かめる必要があります。
次へ進む前に
六枚のレンズは、いまある商品を別の角度から見るためのものです。見る対象そのものが決まっていない場合、レンズを何枚重ねても像は結びません。
第1章は、その対象を作る側の作業です。自分の経験、届けたい相手、その人のいまの状態、消すネガティブ、足すポジティブ、いちばん小さい商品の形、最初の価格、最初に届ける場所、購入後の体験。九つの欄を順番に埋めて、一枚にします。
この記事を読んだことは、第1章があなたに合う証拠ではありません。六つの作業を試して、商品側に空欄が無いと分かったなら、第1章でできることは多くありません。空欄があり、しかも一人では順番が決められないと分かったときだけ、比較対象に入れてください。
次に当てはまるなら、購入より先にやることがあります。
価格は4,980円です。入っているもの、向いていない人、約束しないことを確かめて、合わなければ買わないでください。ここまでの六枚のレンズは、買わない場合もそのまま持って帰れます。